店主日誌
2011年2月

2/7(月)

  年が改まり、早くも1か月が過ぎた。今年は例年になく細かい仕事に追われている。例年になくというのは、三味線店は年の始めは3月くらいまで殆んど暇な時期が続き、その間に道具の手入れや普段できないことを整備する。ところが今年はその間もろくにないくらいにやることが多い。

  そんな中を縫って、先日ベトナムのホーチミンへ僅か2泊のロケット旅行をしてきた。ベトナム戦争の痕跡が深くいろいろ考えることの多い旅行だったけど、ホーチミン市内は2月3日のお正月直前で暮れの賑わいが物凄かった。町を行き来する圧倒的に若いパワーを持った市民の姿に強烈な印象を持った。近いうちにまた訪れたい。

  店主日誌も暫くご無沙汰だったけどまたバクバク書いていこう。

2/9(水)

  今日は夕方から江戸東京博物館で「民謡SONIC」という日本民謡協会主催のいわば民謡バンドフェスティバルが開催される。従来の民謡形式とは少し趣が違う内容で多彩な楽器によるバンド演奏者たちと唄い手たちの共演なので出演者も観客も若い人たちが多い。

  当店も例年ロビーにて出店している。今回は2月12日に控えた『福士豊秋一人会』と3月8日の『OYAMA×NITTA』のChito-Shanライブのお知らせと宣伝だ。

  今朝は雨が降っている。夜中に雪も降ったそうだ。この時期はとても乾燥しているので雨のお湿りはとってもほっとする。と書いてふと外を見ると白い雪が斜めに音もなく降っている。

2/10(木)

    昨日、江戸東京博物館で長年のお客様にお会いした。暮れの私の日誌をご覧頂いてとても心配して下さった。なんと有難いこと。「ほら、この通り、すっかり元気になりましたよ」とおどけて冗談ばかり言った。確かに本当に具合の悪い時は冗談なんて言う気にもなれないもの。

  冗談というかユーモアというか、昨日、『民謡SONIC』の司会を務めたのが椿正範さんと清野明子さん。お二人の絶妙な間合いとジョークは「ウソ!」と思うほど絶品。一流の津軽三味線弾きと民謡歌手には全く見えない。もう早くも昨年のことになるがお二人とも『Chito-Shan』に出演くださっている。その清野明子さんがロビーの隅に私を呼んで「これ、加藤さんに・・・」と恥ずかしそうにチョコレートを差し出した。「誰にも上げていません」といじらしく・・・。む、これはジョーダン?ホント? 私は年甲斐もアリ、舞い上がるほど嬉しくなってしまったのだ!

2/13(日)

  昨日は『福士豊秋一人会』。その前夜の降雪が朝、凍結すると天気予報が言っていたくらいなので。空気の冷たい一日だった。16時半と19時の2回公演だったが客席はいい感じで埋まった。たっぷりのソロと曲弾きの後、あきみちゃんと旦那様の矢吹和之さんの伴奏を得て得意の5大民謡を歌う。ここでは客席から藤井黎元さん、土生みさおさんさん、白藤ひかりさん、松橋礼香さんらが次々と伴奏を交代して、終わってみれば一人会というものの随分豪華な顔ぶれが揃ってしまった。

  そして今日のChito-Shanは一日中、『津軽三味線の六段で千段弾いちゃおう!(あくまで目標)』というタイトルで流派も経験もこだわることなく集合したメンバーがひたすら弾きまくっている。とても面白い企画だけどいっぺんに集中して弾くから腕を痛めないでね。

2/14(月)

  中国映画、2000年作、『北京の自転車』と2010年作、『再会の食卓』を見た。いずれも現代中国の短い時間での急激な時代の変化を捉えている。前者は高度経済成長期直前の日本と良く似た状況の中、田舎から都会で働き始めた少年の物語。

  自転車を盗まれた17歳の主人公が必死に探し出してやっとその自転車を見つけたが、現在の持ち主は親の金を盗んで中古車屋で買った同年代の高校生だった。一台の自転車を巡って二人の葛藤と追いかけっこが始まる。

  物語の後半、北京の下町の狭い路地裏を猛スピードで突っ走る自転車に乗る少年たちと、目の前を過ぎてゆく走る物体も目に入らず、あちこちで談笑する老人たちの静かなたたずまいが好対照で時代のギャップを描いて鮮烈な印象が残る。

  『再会の食卓』は経済成長期の真っただ中にある上海が舞台。台湾と中国に分断され、それぞれの国で暮らすかつての最愛の夫婦の40年ぶりの再会の物語。二人が見つめあうそのまなざしは、マストロヤンニとソフィアローレンの『ひまわり』に似て切ない。 

2/27(日)

  昨年10月に発行された日本音響家協会発行の『SOUND』という季刊誌に私の拙文を寄稿した。それは「私と三味線かとうの仕事」と題したもので、私が中学校を卒業してすぐこの仕事についたいきさつから始まり、修行時代を経て、2年間の放浪生活のこと、趣味の演劇に没頭したときのこと、三味線かとう開業、ちとしゃん亭、エレクトリック三味線の誕生、ちとしゃん亭20周年特別企画コンサート、そして三味線ライブハウスChito-Shan誕生までを「はやぶさ」よりも速いスピードで展開した。

  3日前、東京は春一番の風が吹いた。日一日と日差しが暖かく感じる。お日様に向かって目を閉じると目の裏側がオレンジ色になり赤に変化する。私はこの変わる瞬間が好きだ。

  そう言えば昨日早朝テレビで『風が強く吹いている』という大学駅伝のマラソンランナーたちを描いた青春映画を見た。終わってもまだ7時半だった。こんなに早く映画を一本見たのでえらく得をした気持ち。そして奇しくも今日は東京マラソン、参加出場するためにお客様が台湾から来日している。天気は快晴。気温はまだ低いけれど空気は澄んで絶好のマラソン日和。