【特集】邦楽とテクノロジィ――邦楽ジャーナル1991年12月号より
 
今、邦楽器はジャンルを超えてあらゆる音楽シーンに登場し始めた。最高の音質でそれを可能ならしめた高性能マイクと楽器に焦点を当てる。

邦楽ジャーナル表紙
エレクトリック三味線夢絃21

・三味線の周波数帯を考えて
・未来に夢を託す

夢絃21を使って
・国本武春さんの話
・杵屋裕光さんの話
・木下伸市さんの話
・西潟昭子さんの話
・本條秀太郎さんの話

    
  エレクトリック三味線
 夢絃21

  「エレクトリックは不自然、という声があったとすると、そもそも大ホールでやるときにマイクを使うこと自体不自然です。 マイクで拾った音はバチ音の後のメロディアスな音が取れません。三味線は生音が良いに決まってますが、その自然の音の伸びがマイクで拾えないとすると、 拾えない自然の音をいかにしてホールで響かせるか、考えるべきでしょう」 
  エレクトリック三味線・夢絃21を開発した三味線かとうの加藤金治さんと山口繁夫さんは言う。
  三味線をマイクに通すとどうしても音がキンついて、しかも言われる通りバチ音ばかり拾ってしまう。もはやそれは三味線の音とは言いがたい。 音量を上げればハウリングを起こすし、これほど音をとるのに難しい楽器もないだろう。それがために、三味線は評価を落とし、活躍する場面も大きく制限されてきた。
   しかし一年前、夢絃21が開発されたことによって、三味線が使われる音楽シーンがにわかに変わりはじめた。著名プロがこれをどのように使っているかは、インタビュー記事をご覧いただくとして、まずは夢絃21という楽器の概要から。

  三味線の周波数帯を考えて
  基本的には振動ピックアップマイクを使用している(表皮の内側に付けられている)。市販されているものは、ほとんどがギター用に作られているため、 それをそのまま使用すると、音がキンつく原因になる。いわゆる、三味線のもつ周波数帯に合わないのだ。夢絃21では胴の中に納められているプリアンプの基盤で その周波数帯を変えているため、アウトプットするまでのあいだに細棹や中・太棹それぞれの三味線にそぐう音となる。しかし、これだけではアウトプットするとノイズが大きく出るため、 胴内で雑音除去の工夫が凝らされている。マイクも当初は市販のものを使っていたが、今では素子から作りかえたオリジナルのマイクを使用している。
  こうして生音を無理なく増幅させることができる。ラインになるのでリバーブなどエフェクターにダイレクトに継げることができ、 エフェクター本来の効果をハウリングを起こすことなく存分に発揮させることができる。

  未来に夢を託す
 
 「三味線と言う楽器には永い歴史があってほとんど完成されていますよね。立派にそれを演奏される方もたくさんいますし、それはそれでいいんです。 ただ地球が狭くなって、異種楽器どうしの交錯の中から何かが生まれるというのがもはや当たり前まえになっている今の時代に、三味線も世界の楽器と同じような呼吸をさせてやりたいんです」
  加藤さんは目を輝かせる。「まるっきり新しい楽器と捉えてもいいんじゃないでしょうか。完全なる武器ですよ。使われ方はそれぞれに違いますが、みんなこれでどんなことをするのか、私のほうが楽しみです」
  経営的には苦しいところだが、加藤さんは未来に夢を託す。
  「こちらから新しいことを発信していたいんです。自分がとどまっていたくないから。自分が何かに出会いたいから。夢絃21のおかげで魅力的な人と次から次と巡り会うことができました。 そんな広がりは永遠です。この楽器を端緒にゆくゆくは十万円くらいで買える楽器にしたいと思います。そして若者向けに白や蛍光色の三味線になってもいいんじゃないかと考えています。 三味線ってすごいんだなあ、三味線の音っていいなあって、また違ったところから見直されてくると、ぼくは確信しています」
  一月十三日、五反田ゆうぽうとで本條秀太郎の夢絃21を使った「海照コンサート」を、三味線かとうが主催する。夢はさらなる夢を生む。

 


  夢絃21を使って

  夢絃21が製品化される以前からモニターとして協力していた三味線ロックの国本武春さんの話――以前は音量を確保するため津軽を使っていた。 編成がピアノとアコースティックギターに音量調節できる打ち込みのドラムだったので、それで何とかしのげたが、生のドラムを入れたとたんに負けてしまうことを考えれば、 夢絃21にして初めて今のドラム、ベース、キーボードという編成が可能になったと言える。このおかげで津軽の大きな胴も必要なくなり、 普通の中棹を使っているが、その利点はストラップ(肩かけ)を付けて立って動けること。ライブではワイヤレスで音を飛ばしているので、 出から引っ込みまで暴れまくっている。エフェクターを使うと三味線の音でなくなるので使っていない。三味線の音は生に限るが、ライブの場合、 夢絃21なら音質的にも十分耐え得ると思う。PAも慣れてくればそれなりの音が出せるようになるから、楽器だけでなく、PA技術もともに進歩してこそ、 これからの三味線に世界を明るくするんじゃないか。

  ザ・家元の杵屋裕光さんの話――シーデューサー(ピックアップマイクの商品名)をつけて音を増幅させていたが、 それでもゲイン(音量)が足りなかった。夢絃21はゲインも十分だし、ハウリングも解消できた。この三味線にして、初めてロックに使えると言っても 過言ではない。それに何と言っても生音をそのまま増幅できることがうれしい。エフェクター効果も抜群なのでフルに活用している。トーンコントロールで 堅い音も柔らかい音も自在だし、自分の音を作ることができる。レコーディングは生の三味線を使っているが、夢絃21を使ってもそれほど変わらないと思う。

  伊藤多喜雄バンドの木下伸市さんの話――津軽三味線は強く叩くから、普通のマイクで拾うとバチ音しか聴こえなくなってしまう。 夢絃21はその点,糸の響きとバチ音のバランスがよくとれる。エレキと言ってもアコースティックだから、生音を忠実に出せるところがよい。 多喜雄バンドではエフェクターを使っていないが、ロックバンドではエフェクターを活用している。ハウリングを起こさないし、洋楽器のパワーに負けないから、音響さんもラクだろう。屋外での公演も結構あるので、今はすべてこれを使って演奏している。

  十二月十七日にリサイタルで夢絃21を使う西潟昭子さんの話――リサイタルでは『LaLaLaLaLa』(三枝成彰作曲・三弦ソロ)と『万華譜』 (坪能克裕作曲・三弦と打楽器)に使う。『カインの犠牲者達のために』(松平頼暁作曲・電子的に処理された三弦音とライブ)はリハーサル次第。 エレクトリックのほうが効果が出ると思う曲に使うわけで、このリサイタルではこれと生の三味線との対比をねらっている。

  一月十三日に夢絃21をつかった海照コンサートを行う本條秀太郎さんの話――僕は古いタイプの人間で 「三味線は生音」という意識が絶えずあるから、細棹だと電気音はどうしても気になる。でも三味線用のマイクがないことも事実で、 その点夢絃21は使える。これは今の時代にあった音をピックアップできる楽器だと思う。そして、三味線という伴奏楽器から、一人立ち できる楽器にもなり得ると思う。スタンドマイクだと、自分の好きな音を(会場に)出せない。音はミキサーが作るわけで、演奏している方は 自分がどんな音を出しているのか確認できない。夢絃21lは自分で選んだ音を確認できるので安心だ。一月十三日のコンサートでは、 生の三味線と夢絃21を両方使って、聴き較べしてもらおうと思っている。