『たいころじい』No.22 2002年12月10日発行 (財)浅野太鼓文化研究所
[特集1]楽器の木/三味線 より「三味線かとう」紹介記事

(前略)
熟練の目で材質を見極める

 東京都荒川区の『三味線かとう』は、三味線の第一線で活躍する木下伸市や上妻宏光、浪曲師の国本武春などが絶大な信頼を寄せる、製造・小売店である。店主の加藤金治さんは、民謡酒場などの衰退とともに邦楽ブームが去った平成元年、仕事場を兼ねる十坪ほどの店舗を開店した。「邦楽ブームの終焉とともに店をたたむ同業者の多い中、隅田川のへドロの底に飛び込むような、まったく先の見えない開店でした。けれども自分にできるのはこの仕事しかなかったですから、それを大事にすればきっとなんとかなるだろうとL。そうした不退転の出発は、同時に「こわいものなし」の猛烈なフロンティア精神をかきたてた。そして翌年、業界としては画期的なエレクトリック三味線『夢絃21』を、今年八月には稽古用のサイレント三味線『夢絃21サイレント』を商品化した。どちらも三味線奏者にとっては大きな福音となった開発である。

 三味線の樟師だった父親の助言で、中学卒業と同時に根岸の皮張り職人のもとに奉公に出た。定時制高校に通いながら七年問の修業を経て全国を放浪し、旅先で出会ったアマチュア演劇集団にのめり込んだ。しばらくの間、皮張りで生計を立てながら芝居を続けたが、所属する劇団が紀伊國屋演劇賞を受賞したことから急激に上演回数が増え、皮張りと両立できなくなったことをきっかけに開業を決意した。

 皮張りを主体とする三味線かとうでは、注文によっては荒木から製作を手がけることもあるが、多くは熊谷市の東邦楽器に樟と胴の成形を依頼している。だが、ものごころついたころから父親の仕事を間近で見てきた、この道四十年のベテランの木質を見極める目は確かだ。「紅木の中でも四面にまんべんなくフが浮き出ている逸材はそう多くはありません。そん棹には、それなりに希少性の高い胴を組み合わせてこそ、樟も胴も最大限に持ち味を発揮するんです」。

 最新鋭の『夢絃21』と『夢絃21サイレント』も、原材料はやはり紅木と花梨にこだわる。「若い人にも本物の良さを知って欲しい」。そう語る加藤さんの手元で、キリリと張りつめた一の糸が、「ビーン」と腹にこたえる響きを放った。